あたらしいきせつ

まだ春だと言うのに1日じりじりと突き刺す太陽が屋外の肉体労働時には疎ましい。

　
国外往復の旅で寝たのは飛行機の中だけ、という強行を成し遂げた為いつもは見せることのない疲労の表情を社員に見せていた。実に、不甲斐無い。

「大丈夫？凄く眠そう」

「はい、大丈夫ッス！」

「んまぁ次降ろしたら休憩だから」

「うっす」

スーパーの荷下ろし等の仕事を始めて早一年になる。年月がたつのは物凄く早い。
ここに来た時高２だったなんて信じられないくらいだ。
あの頃は俺みたいな能力者が一杯居てなんだか安心半分楽しさ半分だったっけか。
今じゃどうだろう。怠惰に溢れかえっているのではないか。
そして、昔世話になった結社の解散。若干伸びたがそれでも寂しさは変わらない。
自分は……何故ここに居るのだろうか。
戦いたいため？
否。
守りたいんだ、と。

（何を？）


春だと言うのに、日差しがきつい。疲れと相まって意識が朦朧としてくる気がした。
首を振り、何とか一繋ぎの意識を保ち作業を終わらせる。
それじゃあ休憩どうぞ、と年配の先輩に言われ、いつもスポーツドリンクを買っている自販機の元へと歩いていく。
ポケットから小銭を取り出し150円かよと近くの車道からの喧騒にかき消される位の声でつぶやいた。
ガコンと出てきたドリンクを手に取る。



不意、に


喧騒が掻き消え辺りから気配が消えた。
振り返るとそこには小さな男の子。

あれは

「俺……？」

少年はこちらをじっと見つめている。なにかを言いたそうな、不思議そうな、そんな顔で。

「な、んだよ」

「なんなんだよ！」

（……）

苛立ちが募る。幼い頃の自分なんて見たくもなかったはずなのに。
何も知らないで能力をヒーローの力かなんかと勘違いして。
親父に褒められたからって粋がって。
地下に行かされて戦って戦って。
ヒーローじゃないって気がついて。

（ねぇ）

「！！」

胸が跳ね上がった。
この声は、俺だ。

（なんでここにいるの？）

頭の中が一気に白くなったのが分かる。
ああ、なにしてるんだろうな。
そんな一言すら出ずに。

「……俺は、何に向かって進めばいいんだ？」

思いもしなかった弱音が口から吐き出される。

「本当に、皆を……世界を守りたいのか？」

「わっかんねー……何が、したいのか」

その言葉は少年へ向けているのか、自分自身へ向けているのか。

人と触れる事、関る事。
それは自分で作った孤独を振りかざしていた青年の心を複雑にするには十分すぎる物。
ゴチャゴチャし始めた心は更に絡まっていく。

「失いたくねーけど、これ以上近づきたくもない」

少年は静かに見つめていた。そしてゆっくりと口を開いた。

（大人って難しいね）

そういって相変わらずの不思議そうな顔を浮べたままするりするりと煙に巻かれて消えていった。


ピロピロピロリーン♪

中途半端に明るい機械音にハッとした。
アタリが出たらでもう一本、の音だった。

ガコンッ

もう一本スポーツドリンクが落ちてくる。
あれはなんだったのだろうか。

夢？
こんな真昼に？
疲れてんだな。
ま、いいか。
このアタリは…さっきのアイツの分だろ。
分かってるって。

そういった口は少しだけ上を向いていた。



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Back Graund Music：真昼に見た夢／Rip slyme