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「とりあえずいいから行ってこい馬鹿!!」
そういって兄貴は俺をこもれびの自室から蹴りだした。
そういって兄貴は俺をこもれびの自室から蹴りだした。
もう、来る事はない、という気で居た筈の木賊さんの家の前。
俺はただ彼女がいると思われる窓を、面した道路から見つめていた。
「(大体どうしろっつーんだよ、馬鹿兄貴)」
頭を抱え、来た道へと踵を返す。しかもこんな夜に俺は何をしに来たんだと溜息を付きながら。
しかし、ふと脳裏に追い出されたときの言葉が過ぎる。
『なんか最近顔色よくねーんだよ。だからほら、コレもって料理して来てやれ』
大体、それなら何でお前が行かないのだ、と言えば、「オレはたっつんとラブラブするので忙しいんです」とかエエ顔で返してきやがる。腹が立ったのでダークハンドしてやった。
で、何か入っている買い物袋を持ったまま考え続けて20分。ドアの前に移動するまで10分。呼び鈴を押すか押すまいか悩んで30分。
其の時、だった。
中から聞いてはいけない様な、嘔吐する声が聞こえてきたのは。
「木賊、さん……ッ?!」
気がつけば呼び鈴を連打していた。アレだけ押すのを躊躇していたはずのそのボタンを、今は煩いと思われるほど鳴らしている。
すると暫くして、内鍵が外される音がした。
「……どなた、ですか…」
警戒して少しだけ開けたドアを無理やり引き。
驚いた彼女の顔はいつも以上に蒼白でまるで西洋の人形のように生気が感じられなかった。
しかも、出る前に一度は拭ったであろう汗も、状態が異常だという事を理解させられた。
「………ッ」
言葉にならない想いで勝手に部屋の中に上がっていく。
いつもなら女性の部屋と言うだけで恐らく上がろうともしない空間へ問答無用で入っていく。
「琥……先輩?な、なんで……」
あからさまに慌てている木賊さんに返事もせず、買い物袋の中を確認する。
インスタントのご飯、卵、ネギ、かにかま。
馬鹿兄貴にしては上出来な品揃え。本当に抜け目が無いな、と心で苦笑した。
そしておもむろに作り始める。
「せ、先輩……」
おろおろしている木賊さんを無理やり担ぎ上げ、ベッドへと座らせる。
そして、此処のところ、まともに目線すら合わせたことが無かった瞳を見て、
「ちょっと、黙って寝ててもらっていいっすか」
そういってキッチンへと戻っていく。
無言で淡々と料理していく。無論、作っているものは卵粥。
消化が良くなる様に、丁寧にお玉の底で軽く磨り潰し。
極力、彼女の方は見ない様。見たらいつもの自分に戻ってしまいそうで。逃げ出してしまいそうだから。
そうして、そう時間もかからずに粥が出来る。適度に塩分の付いた柔らかな味。
「あ、ありがとう…」
嬉しそうな、悲しそうなそんな声で彼女は粥を口に運ぶ。
どうやら口に合ったらしく、見る見るうちにその粥は茶碗から消えていく。
「あ、あの、先輩……どうして、きてくれたんですか?」
「…………」
返す言葉もなく、彼女の持つ茶碗を見つめていた。しっかり食べているか。それを見る為に。
「先輩…?」
「食べる時はしっかり食べる」
「はい……」
少し、昔の事を思い出した。
まだ兄貴が居ない頃。俺が高1で鶴が中2の頃。
負けず嫌いの鶴が必死こいて特訓して、過労で倒れて、そん時親父も鶴吉のかあちゃんも留守で。
しょうがないから俺が代わりになんか食わせようとして。卵粥作ったんだっけ。
そん時に似てる。心配と、少しの怒りと。
「食べたっすか」
「はい……」
「じゃあ、後は安静に寝てるっす」
「あ、あの先輩……風邪じゃない、んですけど」
「風邪じゃなくても、体の疲れはしっかり取っておかなきゃ駄目っす」
いそいそと後片付けをし、作り置きの卵粥をタッパーに仕舞い、散らかっているキッチンの流し場を一通り綺麗にして、帰り支度をする。
相変わらずの気まずい空気は居心地が悪い。
「せ、んぱい」
「なんすか」
「……僕…じゃなかった、私のこと嫌いじゃないの…?」
返答に困る。嫌いじゃない、というかただ単に苦手、な感じではある。
しかし、それ以上に「元恋人」という状況がどう対応していいものか分からない。
その上、俺の為に命を張るだの、他に恋人出来るだのなんだの…。
俺には、全体的に理解出来ない。
理解できないというそれが全て「避ける」という行為に出てるのだ。
ただ、
ただ一つ言える事は
「好きとか嫌いとか、そんなのの前に、同じ結社の、学園の仲間っすから」
勝手に黙示録で倒れられちゃ困るんで、と付け加えるように言い捨て、そそくさと玄関に向かう。
振り返らず。どんな顔をしてるかなんて、見ている余裕はない。
きっと悲しい顔をしているのだろうから。
何も考えないよう、玄関をくぐった。
そしていつものこもれびへの帰り道。
最近、顔出してないな、と思いつつ、また自室へ篭って行った。
ベッドに体を投げ出し、
天井を見ながら、
目を閉じ、
全てを忘れようとして全てを思い出してしまう自分に苛立ちながら、
そのまま、眠りへと誘われて行った。
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親?:カメキチ・ミズノ(TW1)
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