帰り道：琥

どうやら、うとうと寝てしまったらしい。

頭が起きた事は、列車が線路を走っている音が聞こえてきた時に認識した。

「寝てたのか……」

と、目を閉じながら誰に言うでもなく、呟く。
口から漏れた直後、
何かが自分に触れている。
凭れ掛ってる、が正しいのか。
ゆっくりと目を開き、其の重量の正体を確認する。

「と、くさ、さん…………」

思わず、彼女の名前が零れる。
何時からこの状態だったのだろうか。
一体、何分寝ていたのだろうか。

ふと、自分にかかっている上着に気がつく。
寝てしまった自分に掛けてくれたのだろうか。
返事もしない自分の隣にずっと居たのだろうか。

戦争の為に吹っ切ったはずの感情が再び影を伸ばす。

「お、起こさねーと……」

しかし。
無理に動かして起きて面倒くさい事になってしまわないだろうか。
そんな事が頭を過ぎり、結局そのまま列車が目的地に向かっている間、ずっと景色を見ていた。

「俺、なにしてんだ……」

自分の脳味噌では、女性の考えている事が理解できない。
引っ付いてきたり、
友人と一緒に居るほうが多かったり、
急に離れたり、
かと思えばまた構ってきたり…

良く、分からない。

恐らく、向こうは自分の事を好いてくれてるのだというのは少なくとも分かる。
だが、早々前の様な関係には戻れない。
……俺が拒絶してるから？

わからねー。

最近自分が何をしたいか、わからない。

馬鹿かってな。

自分を嘲笑うかのように、景色のずっと向こうを見ていた。
再び夢の中へ戻るまで。